吉川英治賞(吉川英治文学賞、吉川英治文学新人賞、吉川英治文化賞)授賞式
平成11年4月9日(金)17:00〜 帝国ホテル


会場につくと、すでに姉さんは吉川英治文学賞を受賞された白石一郎氏などと、 会場前方に着席されていました。どう見ても平均、70歳を超えそうな、 受賞者のおじさま方の中、白のスーツ姿でちんまりと座っている姉さんは、 一人まるで「孫娘」のような雰囲気。胸にはおお!晴れがましいぞ!受賞者印の 赤い花が(*^^*) 。よく見る記者会見形式で、授賞式は全員着席。 選考委員だった真理子先生の挨拶と、文緒姉さんの受賞挨拶を メモってきたので、公開したいと思います。

林真理子先生のお祝いの言葉。

「どうも山本文緒さん、おめでとうございます。本来なら私のような、新人の選考 委員ではなくて、先輩方(選考委員は他に阿刀田高氏、井上ひさし氏、 北方謙三氏、野坂昭如氏)でしたら山本さんの一生の記念になると思ったのですが、 私が同じ女性ということと、一番強く推させて頂いたということで、このような挨拶 を させて頂くことになりました。と、申しましても、ほとんど満票、最高点で、受賞されました。本当に素晴らしい才能の持ち主でいらっしゃいます。
〜中略〜
井上ひさし先生が、この女性主人公は自家中毒を起こしているんだと、実にいいことをおっしゃっていましたが、確かににそのとおりで、この女性の主人公は自分で自分の毒にあたってるわけです。
先日初めてお目にかかりまして、山本さんは外見はこんなに楚々としたお嬢さんでらっしゃいますが、おそらく作家にとって、一番大切な毒をたっぷり持っている方なのだと思います(笑)。
非常に頼もしい仲間が増えたということで、私自身、とても嬉しく思っています。 この本はこの賞の受賞を機に、とても売れていると聞きます。
今恋愛小説はなかなか売れず、なかなか読者もこちらの方に来てくれないのですが、 山本さんのご活躍で、恋愛小説のジャンルにもまた新しい動きが来るといいな、と思いました。
今日は本当におめでとうございました。

姉さんのお言葉。

「今回は吉川英治文学新人賞という大変名誉ある賞を頂きまして、本当にありがとうございます。私はこの仕事を始めまして、丁度11年でございまして、この11年間 というのは、華やかな場とは無縁で、仕事も途切れてしまったりしたこともありましたし、私的には結構スリルに満ちた11年だったんですけれども、この2,3年で小さいながらもヒットが打てるようになりまして、 その小さいヒットを確実にバントで送って、コツコツと1冊1冊本を作っていくとい うのが、 ここ2,3年の作家生活でした。
けれども昨年の末に出版しました「恋愛中毒」という小説で、予想外にも今回この吉 川英治文学新人賞という賞を頂きまして、生まれて始めてのベストセラーというものを体験致しまして、初めてホームランをこの世界で打たせて頂いたような感じです。 でも、初めてのホームランなので、どうやってガッツポーズをとって塁を回ったらいいのかわからず、大変ギクシャクしています。
初めてこの世界に入ったのは、少女小説の賞を頂いたんですけれども、そのとききし くも吉川新人賞の選考委員、阿刀田先生が審査員でいらっしゃいまして、多分阿刀田先生は覚えていらっしゃらないと思うんですけれども、私にパーティのときこっそり、少女小説のこの賞は大変、歩留まりのいい賞だから、頑張りなさいとおっしゃって下さいました。
歩留まりなんていう言葉をこんなところで言ってはいけないのかもしれませんが、今回、この吉川新人賞を頂きまして、講談社の方にこっそり、この賞は歩留まりのいい賞だから、頑張りなさいと同じことを言われまして、私、歩留まりというものに恵まれた人生のようでございます(笑)。
ですから、三振の多いホームランバッターを目指すのではなく、今までと同じように、小さいヒットにバントをコツコツ繰り返して安定した作家になっていきたいと思います。
もちろん、時々はホームランを打ちたいと思います。
今回このような賞を頂きまして、思わぬご褒美となりましたので、気持ちも新たに6 0歳、70歳になっても書けるように頑張っていきたいと思います。
今回は本当にありがとうございました。

ということでした。文緒姉さんのスピーチはユーモアもあり、しかし、新人賞という賞に相応しい(と、諸先輩方が好感度を持ちそうな)初々しさがあり、場内の笑いも 誘いつつ、応援しよう!という気にさせる満点スピーチでした。
実際、私の周囲にいた人たちは、スピーチにうんうん、と肯きながら聞き惚れていました。 この後パーティになったわけですが、姉さんの周囲にはお祝いの言葉をかける 人々がひっきりなしに訪れ、おそらく帝国ホテル名物のローストビーフも、屋台のお寿司も、 鰻も、ラーメンも、豪華なデザートも、口にすることはできなかったと思われます。
以上、帝国ホテルから、お届けしました。

≪取材・文/特派員O≫
戻る