〜パイナップルの彼方〜

他の新人賞に応募を考えていた矢先に、フリー編集者のKさんという方から、少女小説ではなく大人向けの単行本を出さないかと依頼があったんです。
そりゃもうとびつきましたね、その蜘蛛の糸に。
少女小説っていうのは文庫書き下ろしだから、単行本を出せるっていうことがとても嬉しかった。
で、実際書いて原稿を渡してみたらものすごく厳しい。
コバルトの担当の方も結構厳しい方だと思っていたけど、そんなものじゃなかった。
一行一行チェックを入れてくるんです。
でも単に駄目出ししてくるんじゃなくて、どういう意図でこう書いたのか、どういう効果があってこのエピソードを入れたのかとか、そういうことをみっちり話し合うんですね。
カルチャーショックでした。
その時は、一般の文芸の人達は皆こうやって本を作っているのかと感動しました(笑)。
でも実はひとつひとつ言ってやらなきゃ目も当てられないほど私がへただっただけなんですけど。
Kさんに何でも自由に好きなことを書いていいといわれて最初はだいぶ戸惑いました。
今までは少女小説って枠があって、その中でできることをやってきたわけだから楽でもあったんです。
そこで突然何でもご自由にって言われて、じゃあ私が本当に書きたいことって何だろうって考え込みました。
で、書いたのが普通のOLの逃避願望の話。
現実とは違うけど、この主人公が性格的にいちばん自分に近いかもしれないですね。
テレビドラマにもなったし、思い出深い作品です。


この解説は、「月刊カドカワ」1997年3月号に掲載されました。
興味のある方は図書館などで読んでみてください。