〜群青の夜の羽毛布〜

ここいらあたりで、また読み手がびっくりしてくれるようなものを書きたいと思って作った本です。
もともと心理学系の本は好きで読んではいたんですけど、この頃は特にカウンセリングものに凝ってました。 私は表面的なことや現実的に困ったことは人に相談することもあるけど、本当に悩んでいることはほとんど人には打ち明けないんです。 でも、もし相手が優秀なカウンセラーだったら話すかもなって思ったんですね。 本当のことを、家族でも友人でもない赤の他人のカウンセラーにだけ話すって言うのが面白いなって思ったところから発想しました。
これも舞台が東京郊外になっています。私自身も育ったせいか、郊外っていうのがすごく不気味に感じる時があるんですね。 同じような二階建ての家が並んで、電車にぎゅうぎゅう詰め込まれてそこと都心を往復して、 クリスマスにはツリーを立てて不二家のケーキかなんかを食べて。 で、全部同じように見える家の中が、実は一軒一軒全然違う事情や悩みを抱えてて、 それが外からは全然分からないっていうのが何だか恐くて。 どこにでもいる、当たり前のお父さんとお母さんの怖さみたいなものが書きたかった。
この頃になってやっと気がついたんですけど、私は本当に悩んでることは 人に相談しないっていうことは、小説も実は人に相談なんかしたくないんですよ。 最初の頃はとにかく編集者の言うことは正しいに違いない、 あるいは言うことを聞かなければいけないって思ってたし、 Kさんが作者といっしょに切磋琢磨するタイプの人だったからそうしてたけど、 実は私は人に何の相談もしないで自分ひとりで閉じこもってうじうじ書いて、 完成品をバーンと渡すっていうのがいいってことに気がついたんですね。 作っている時にあれこれ言われるのは好きじゃないんです。 作家さんによっては短編でもプロットを人に話して相談する方もいるけど、 それがいい悪いじゃなくて、私は口出しされたくないタイプ。
この本は、そういう意味で自分ひとりでこもって書き上げた理想的なものですね。 だから欠点も多いし、他社の編集の人も「もっとこうしたらよかった」 と色々アドバイスしてくれる人が多かったけど、私自身は大満足です。 で、このタイトル。私はこんなに気に入っているのに、 けちょんけちょんに言われますね(笑)。でも不本意ながら他人の意見を取り入れても、 他人は何の責任も取ってくれないんですから。失敗は失敗として自分に返ってくるのがいいです。


この解説は、「月刊カドカワ」1997年3月号に掲載されました。
興味のある方は図書館などで探して読んでみてください。