〜恋愛中毒〜


この本は3年ぶりの書下ろし長編作品になります。 以前は書下ろしを仕事の中心にしてきたんですが、 このごろは並行して小説誌の短編の仕事もするようになって、 どうしてもまとまった時間がとれないんです。 3年という期間は、自分自身にもプレッシャーになりましたし、 担当してくれた編集者にもそれはあったと思います。 作品を書いている最中は、編集者を敵対視してしまうんですよ。 もちろん終わればいちばんの味方になってくれるのが担当者なんですが、 電話がかかってきたりすると、理由もなくムッとした気持ちになって 応対もそっけなくなったりしてしまう。そんな私に一度も怒らず、 急がすこともなく待ってくれて・・・おかげさまで評判も上々で、 本当に感謝しています。
最初は、女性の主人公の一人称で 特別の作意もなくひとつの恋愛が始まり、こじれて終わる、 という直球勝負の作品だったんです。 でも書いている途中で、迫力はあるけれど読み手がこの話では辛いのでは、 と思いはじめて。男の人はまず「自分にはいいや」と、 女性でも「ちょっと重いから」と読者層をせばめるんじゃないかと感じたんです。 それで、最初に感情移入しやすい若い男性を登場させて、 ちょうど苦い薬を糖衣錠にするように、額縁のようなものをつける構成にしました。 これは結果的に成功だったと思うんですが、当時はずいぶん迷いました。
書評でずいぶん取り上げていただいたのにはちょっと面食らいましたね。 もちろん嬉しかったし、そのおかげで重版もかかったんでしょうけれど、 ミステリー系の評論家の方たちから伏線について褒められたりすると・・ 恋愛小説だって伏線を張るものだと思ってましたし。 以前は、そういうジャンルの方たちに褒めてもらうことで売れるようになったら、 と思ったこともあったんですが、この本は店頭で実物を手にとって、 普段あまり本を読まないような読者を掴もうと意識して作った本でしたから。 構成もそうだし、言葉遣いやエピソードの繋ぎ方で、 本を途中で置かせない工夫を常に心がけて書いていました。 装丁も文芸作品っぽくないものにと、デザイナーさんに 「globeのシングルCDのジャケットみたいにしてください」と お願いしたんですよ。彼らのファンを取ってこようと思って(笑)。 今は恋愛小説の本は薄くて行間も詰まってないほうが売れるのかもしれない。 でも、少し前には読みごたえのある恋愛小説があんなに読まれていたのに、 という思いがあるんです。
私はダメな人間への興味が強くて、読んでいても面白いし、 色川武大さんの小説に出てくるような「しょうもない人間」を 書いてみたいですね。男性のことを書いた作品は多いけれど、 女性についてはあまり書かれていないし。 激痛ではなく鈍痛を感じる話を書きたいですね。 仕事中は忘れているのにふと気づくと毎日歯茎が疼いているような 嫌な感じ―周りには全然気づかれないそういうものって、 何かしらみんな抱えていると思うんですよ。

≪取材・文/大多和伴彦≫


光文社発行「週刊宝石」99/3/4号 「Hoseki Book Center」欄より
興味のある方は図書館などで読んでみてください。